祖 霊                 @横浜 1010artgallery 2021年4月〜5月

アスファルトの下の土地の水を飲むー@

             【立体】 亜鉛引き金網、ステンレス金網、麻布、綿布、他

祖 霊

祖 霊

 【立体】朴板 粘土 綿布 他

隠された猿たち

隠された猿たち

【立体】朴板 粘土 綿布 他

             ■アスファルトの下の土地の水を飲むーB

             ■アスファルトの下の土地の水を飲むーC

         ■アスファルトの下の土地の水を飲むーA

                【平面】 アクリル絵具、鉛筆

展 覧 会

【 祖霊について】
   人間にとって地球は、累々と重なる死者たちの地層によってできています。現在の自分に連なるすべての祖霊によって作られる観念の場所でもあるのです。

 私が小学生の低学年だった頃のある日から、子供達の転げまわって遊ぶ場だった狭い路地裏にまでアスファルトが敷き詰められるようになり、どこまでも車が入ってくるようになりました。級友たちは次々と、昨日は何ということもなくふざけながら通っていた曲がり角で車にはねられ、ぼんやり考え事をしながら渡っていた道でオートバイに轢かれ学校を休むことになったのです。
 夏休みは毎年母の実家のある茨城県の水海道、森下で過ごしました。年にたった一度だけ、4〜5日だけ与えられる東京にはない非日常の世界。裸足で歩く土の広々とした庭、土の道。林の中の恐ろしいような大木、馬たち牛たち山羊にウサギや鶏たち鳩や犬、朝露に輝く蜘蛛の巣、驚くほど大きな蛾や美しい蝶、耳がおかしくなるほどの重層的な蝉の声。
 その中でも最も喜びに満ちた時間は、近くの川での水遊びの時間で、お昼の後の2~3時間をただ水に浮かんだり沈んだりして夢を見ているように過ごしました。
 しかしその美しい田舎の村も一年ごとに環境が変わってゆきました。国道はアスファルトで舗装され立派になり、送電線の鉄塔が立ち、大量の農薬が田畑にまかれ、川上には工場が出来て排水を流すようになりました。
 私が小学校高学年になる頃にはもう誰も川に入ることはなくなりました。「皮膚が赤くかぶれるからだ」という話を川のそばに住む人から聞いた時、頭が曇ったようにぼうっとして、何か妙に体がだるくなった覚えがあります。
 土の表層をアスファルトで覆い私たちの暮らす社会は祖霊との交信をやめ、過去を捨てました。
 今にしてみれば、私の感じただるさは、全く抗うことのできない力によって過去から遮断され、生きながら幽霊のような存在に自分がなってしまったことに対する肉体の反応だったのかも知れないと思うのです。

 何かを埋め合わせるように、大きな目標を立て全身で邁進し達成する、というモデルがあらゆる場に浸透してゆくようになりました。